南仏生活のいろいろ


by atelier-cypres
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映画鑑賞後記

1年ほど前の映画鑑賞になるが、その日は映画の印象が強すぎて、夜眠ることができなかった。それで書いた感想。すっきりして、その後眠れたのだった・・・。その後の付け足しあり。


「Lettres d’Iwo Jima~硫黄島からの手紙」より
監督:クリント・イーストウッド 製作:スティーブン・スピルバーグ、クリント・イーストウッド
脚本:アイリス・ヤマシタ 音楽:カイル・イーストウッド、マイケル・スティーブンス
出演:渡辺謙、二宮和也、伊原剛志、中村獅童 他

戦争映画はもう見まいと2002年の「戦場のピアニスト~Le Pianist (ロマン・ポランスキー監督)」を観て以来心に決めていた。好きな俳優とイーストウッド監督の名前に釣られて観てしまったこの映画。アメリカの製作でありながら、台詞は全て日本語。1945年2月19日に始まった日本とサイパンの中間に位置する硫黄島での戦いを描いた作品。7000人のアメリカ人兵士と2万2000人の日本人兵士の死で終わるこの悲惨な戦いの「日本人の気持ち」を、イーストウッド監督はほとんど完璧に描いてみせる。同じ硫黄島での戦いをアメリカの立場で描いた「父親たちの星条旗」に続く第2作目として作られた。

戦後61年目にアメリカ人が日本の立場で太平洋戦争を描いたことは歴史的に意義があると思う。日米両方の兵士とも、戦場に送られるまでは普通の人としての生活があり、愛する家族や親しい人との別れを強いられている点では同じである。人間を殺したい人はどれだけいるだろうか。戦争の勝敗を主に描くのではなく、そこで命を落とす兵士達、また軍の司令官の家族への思いや決死戦への後悔の念、覚悟を描くことで戦争の意味を問うものともなっている。しかし、我々は具体的なシーンを眼にしなければ人の痛みを想像できないのだろうか。内容が史実であるだけに余計悲しくなる。

現在は自衛隊とアメリカ軍基地となっている硫黄島での映画撮影は東京都から1日しか許可が下りなかった。幾つかのシーンを現地ロケした以外はアイスランドの黒い浜辺とロスで撮ったもの。映像はほとんどモノトーンかと思われるほどに色を落としてあるため、戦闘場面などの生々しさが抑えられている。かすかに掛かった色みが美しい。音楽は監督自身の息子、カイル・イーストウッドが手がけている。単律のピアノのメロディで始まる出だしは最大の効果を引き出し、美しくとてつもなく深い。この島で命を落とした兵士達一人一人の魂の重さを表すかのようだ。戦場で使われるメインテーマも命のきらめきのようなものが表現されており、逃げ場のない、しかも「玉砕」で終わらざるを得ない兵士達の運命は無常に残酷に与えられたものであることを如実に示すものとなる。また当時の日本の雰囲気をも含んだメロディ構成に感嘆した。

この映画に構想を与えたのは、「玉砕総指揮官の絵手紙」という著書である。太平洋戦争で硫黄島に陸軍中将として実在した栗林忠道は家族へ沢山の絵手紙を残している。この著書を通し、イーストウッド監督は戦時下にあっても冷静さを失わずに、大変稀な戦略を展開し、5日間で攻略の終わるとされていた硫黄島の攻防を36日間守備し、兵士達を最後まで守ろうとした人物に惹かれたのだった。監督のみならず、脚本家のアイリス・ヤマシタ氏も栗林中将の手紙を読み彼の人間性に目を留め、脚本構成に生かしたという。配役では栗原忠道役の渡辺謙の熱演も良いが、それ以上に若い一等兵西郷を演じる二宮和也の演技がリアルに迫り、感情に訴えるものとなっている。

ところで映画を観終わって、1959年の邦画「野火」を思い出した。(大岡昇平原作、市川昆監督、船越英二、--残念ながら先日他界された--、主演の作品)昭和19年にフィリピンのレイテ島で最後の防衛線を張っていた大岡昇平自身の体験が基になっている。この二つの映画は時期と状況が同じであるだけでなく、それをアメリカ人と日本人の二人の監督が同じような目線で描いている点も共通している。極限状態に置かれた人間がみせる尊厳が描けている点に於いてもである。大岡昇平はこう語っている。
「私はレイテ戦闘記を詳細に書くことが戦って死んだ者の霊を慰める唯一のものだと思っている。それが私にできる唯一のことだからである。」

一旦は後悔した映画鑑賞だったのだが、日に日にやはり観て良かったと思えてくる。戦争を知らない私が持つことのできる厭戦争感は、この先絶対に繰り返したくないという意味でまた愚かな歴史を嫌悪し、悪とする過程で起こるものだが、実際に戦争を体験した人は(人間の極限を目の当たりにし、あるいは自分が無くなり、判断も出来ない恐怖を感じ・・・)戦争とはどういう事なのか幾重にも群がる意識層で知っている。彼らの経験を映画鑑賞ということで追体験することによってのみそれは知りうるものだと改めて認識した。

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エクス・サン・プロヴァンスのある映画館はこんなにバロックな内装・・です。
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by atelier-cypres | 2008-02-05 19:18 | 琴線に触れる言葉