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南仏生活のいろいろ


by atelier-cypres
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2007年のパリ・オペラ座での公演を扱ったドキュメンタリー番組、そして2005年に撮影された「出口のない海」という映画主演の海老蔵を見て以来、ファンとなっていた私は、周りの友達が日本で歌舞伎を観ているのを、ただ指を加えて羨ましがるばかりだった。それが、海老蔵親子主演の歌舞伎公演の招待券を仕事で付き合いのある方が手配してくださり、急遽モナコまで馳せ参じたのでした。

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パリのオペラ・ガルニエと同様、モナコのモンテカルロに位置するオペラ座はシャルル・ガルニエの設計による。パリとは違い遊技場カジノと同じ建物内に設置されているため、入り口はとても小さく、小規模だが、内部の構造、装飾は優美で豪華。宝箱の様な劇場だ。

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演目は、長唄舞踊の「春興鏡獅子」。「獅子物」と呼ばれる作品郡の一つ。これを海老蔵が熱演した。弥生という少女が踊りを披露し、新年の飾りの獅子を手に踊ると獅子が乗り移る、という内容。海老蔵が女方のこの演目を演じるのは、これが初めての試みだった。その踊りから、市川家の御曹司として鍛えられた舞踊家としての器量を垣間見た気がした。女方には激しい踊りはないもの、中腰での(海老蔵は身長が高いため特に)難易な動作、背反り、長い着物の足捌き。見所の一つに、広げた扇子二本を中に投げては取るのを繰り返す場面など。まだまだ荒削りだが、日ごろの鍛錬を伺うことが出来た。そして、最後のクライマックスは獅子の精に化けて出てくるところで、衣装、化粧、鬘を替えての出演で、長い獅子の鬣を振り回すのは、かなりの技量を要すもう一つの見所。その勇敢な姿は、海老蔵得意の「にらみ」も効いており、動きも大きく、歌舞伎ならではのイメージにぴったり。演目によって歌舞伎はとてもハードな出し物であることを認識。

2幕目は、市川家「歌舞伎十八番(おはこ)」の一つ。「鳴神(なるかみ)」。呪術を用いて雨降らしの竜神を滝壷に封印してしまう鳴神上人に團十朗。上人の呪術を破るため天皇から使わされた美女・雲絶間姫(くもの たえま ひめ)に時蔵。私は、この雲絶間姫というネーミングを見ただけで笑ってしまった。改めて、歌舞伎は庶民的な演芸だったことを思い出す。お付の坊主には厳しい上人が、姫の色仕立てにすっかり騙されて行く様子には、フランス人観客も良く笑っていた。團十朗の貫禄、そして人間味が存分に生かされている作品であり、それに時蔵の女方に味・色気があって素晴らしかった。後半部分で、すっかり酒に酔わされた上人がそれに怒り雷神鳴神となり狂うところは見所。鬘の髪を逆立った毬栗に変えて、顔に隈取をほどこし、衣裳は火炎模様の描かれたものをひっくり返すなどがされ、「荒事」と呼ばれる立廻りがある。

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日本の歌舞伎座で一度観て以来、2回目の歌舞伎鑑賞であった事、1回目から15年以上の歳月を経ていることから今回は、舞台装飾から小道具、役者さんの衣装、化粧、表情隅々まで十分満喫できた。おまけは、贔屓の役者さんであったこと。ところで、歌舞伎はストーリーの筋立てや色彩感覚がPOPである。お能や日本舞踊、狂言、文楽などの影響を受け、それぞれの要素を上手く取り入れ、大衆芸能として出来上がったものであった事を納得。

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歌舞伎は必ずしも血筋で引き継がれるとは限らず、芸風を引き継ぐもの。海老蔵の祖父、十一代團十朗も中村家からの養子だった。今、学究派の父・團十朗と感覚的なタイプの海老蔵のセッションを見れるのは、大変ラッキーである。注目株の海老蔵といえば、世間で揶揄されるイメージとは違い、本人はいたってストイックで、海老蔵を襲名した時以来、肉・魚もほとんど食べず、歌舞伎をするにあたって、「神に捧げなくちゃいけない・・」「心と体をきれいにしなくちゃ」と話している。キャリアも技術もないうちから、市川家の跡取りとしての周りの扱いから来るプレッシャーに本人は苦しんだ。荒れていた青年時代、十一代團十朗(海老蔵の祖父、実際には会ったことが無い)の歌舞伎舞台映像を見て、その美しさに感銘し、憑き物が取れたように心が入れ替わった。海老蔵は、十一代團十朗に容姿もタイプも似ているような気がする。海老蔵襲名に先立ち、崖の上から父の弟子二人が手で引く命綱のみで突き落とされる荒修業も受けた。自分の命を委ねるしかないこの経験から肝が据わった。創作歌舞伎の上演など、新しい作品を自ら手がけるなどして役者としての幅を広げようとしている。今最も気になる役者さんの中の一人である。 
by atelier-cypres | 2009-10-29 06:33 | 日常より